華月はすでに駆け出していた。
脳裏に傷を負った輝夜の姿とそれを狙う鬼が映し出されていた。
その場所まではあと少し。
鬼の毒は回りが早い。
どうか、自分が行き着くまで堪え忍んで欲しい。
肉眼で見る風景と心眼で見る光景がやがてひとつに近づいてゆく。
低く張った枝を速度を緩めることなくくぐり抜けた華月の生身の目に倒れゆく輝夜の姿が映った。


そこから先は華月にとって、まるで悪夢のようであった。
一刻でも早くその場に行かなくてはならないというのに、身にまとわりつく空気がまるで水のように重い。
枝が軋み、ゆっくりと鬼が宙に舞い上がる。
狙いは輝夜。
黒く禍々しい爪を突きだして、襲いかかる先に輝夜がいる。
華月はすべての力を振り絞って輝夜の前へとその身を投げ出した。
『先見夢』が本当に起きることだというなら…己の死が現実のものとなるのなら…もう足掻いたりはしないから。
せめて、大切な人を護るくらいは役立て、と。


小さな背で精一杯輝夜を庇い、華月はぎゅっと目を閉じる。
体を突き抜けた爪が輝夜を傷つけることがないよう、己の体でくい止めるべく筋肉に力を込めて華月はその一瞬を待った。
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