いつまでも途切れることのない森を鬼が狂ったように駆けめぐる。
とうに出ているはずの森はどこまでも続いて、鬼の苛立ちはそのまま駆ける速さに比例する。
気配を消して輝夜が鬼の通る木の影へと待ち伏せた。

「来るよっ!」

華月が心話を飛ばすと同時に輝夜が鬼の進路へと躍り出る。
輝夜の気を漲られた白刃が鬼の左大腿部へとたたき込まれた。
勢いがついた鬼の体は刃が己の脚に切り込むのを止めるどころか、さらにその身を刀の方へと食い込ませ次の瞬間には切断された脚がバサリと枝を降りながら落ちてゆく。
鬼はとっさに木の枝を掴み、なんとか己の体を樹上に繋ぐことに成功する。
輝夜は鬼と高度を合わせて半身の突きの構えをとった。
その脚が枝を離れる一瞬前に、鬼は枝にぶら下がった反動を利用して己の体を勢いよく前後へと揺らした。
腿の切断面からしたたり落ちる黒い血が鬼の狙い違わず、輝夜の顔に降りかかった。

「輝夜っっっ!!」

鬼の武器は爪だけではない。
その血ですら人の身には過ぎる程の毒となる。
とっさに眼を閉じ直撃は免れたもののそれを拭おうとした隙を突いて鬼が輝夜へと飛びかかってきた。

「右に避けてっ!!」

開かない瞳のまま華月の声に従ったもののわずかに避けきれず輝夜の体に衝撃が走った。
防衛本能とでも言うだろうか、意図せずに振り上げた刀に手応えを感じながら輝夜の体がぐらりと樹から落ちた。
鬼の爪は輝夜の左肩を深く抉っていた。
刀を握ったまま、右袖で顔を拭い輝夜は立ち上がった。

「鬼はまだ樹の上にいるっ」

華月の指示を受け、そこを見上げれば鬼は両の爪を枝に深く食い込ませしゃがみ込むように枝の上から輝夜を見下ろしていた。
無くなった脚の付け根から枝へ地面へとぼとぼとと黒い雫が絶え間なく落ちている。
暗い炎を抱える鬼の眼が何も言わずに輝夜を見据えていた。
鬼は枝から動かない。
脚を討ち取られたことで輝夜が手強い敵だと思い知ったのだろう、爪の毒が体に回り動けなくなるまで待つつもりのようだった。
輝夜は刀を右手で逆手に握りしめた。
毒はすでに回り始めているのか左腕の感覚がなかった。
意識が無くなる前になんとしてでも鬼を仕留めなけばならない。
そう思いながら、輝夜は体が小刻みに震えるのを止めることができなかった。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送