「俺が一緒に行ければいいのにな…」

里長も意地が悪いね…なんで華月と一緒に組ませてくれないんだよ。

細い肩に顔を埋めて小さな声で呟けば、華月は輝夜の髪をぽんぽんと優しく撫でる。
仕事に行く前に必ず繰り返される戯言だ。
拗ねる輝夜を宥めることで、華月の中の不安も少しずつ溶けていく。

「気をつけて行ってくるんだよ」

「無事に帰っておいで」

「ケガしちゃ駄目だよ」

次から次へと出てくる言葉たち、それは華月の身を心から案じるものなので心地が良い。
ひとつひとつに頷きながら、華月は花が綻ぶように微笑んだ。

「ちゃんと聞いてるの〜?」

額を突っつく人差し指を、ぎゅっと掴んでその橙色の目をのぞき込む。

「聞いてるよ。ちゃんとケガしないように無事に帰るように努力する。
 でも、もし還って来れなかったら、輝夜が私のこと、ずっと覚えていてね」

努力はするけど、世の中にはどうしようもない事もあるから。
その時は…とお師様が言ってた言葉を思い出して、体を捻って輝夜に向き直る。

(死んでしまったら体は土に還るけど、心は生き残った人の中に生き続けるんだよ。
 そうして心と心がずっとずっと繋がっていくんだよ。)

両親を失った時に貰った言葉にどれだけ慰められただろう。
輝夜も当然知っている言葉。
二人で泣きながら何度も何度も頷いた。

輝夜の首に腕を回して、唇を強請ろうとした華月の耳に信じがたい言葉が飛び込んできた。

「あ、それは無理」

驚いて目を見張れば、くったくのない笑顔で輝夜が言った。

「華月が死んで俺だけ生きてるわけないじゃない」

俺を何だと思ってるのよ?

欲しがった約束は即座に拒否されたというのに、体の底からわき上がる甘さに満ちた喜びに華月は震えた。
冷静に考えれば、喜ぶべきことではないはずなのに。

輝夜の華月に対する執着は里で知らない者がいない程で。
だから、長は二人を同じ仕事に配置しない。
過度の執着は隙を呼ぶ。
何かの片手間にできる程、甘い仕事ではない。
それは華月にしても同じことで、戦の場に共に身をおいて冷静でいられる自身はない。
だから、輝夜が何と言ってもきっと里長の決断は正しい。

ふふっと空気を漏らすように笑えば輝夜が嬉しそうに見つめてくる。
艶を含んだ視線に晒されて、華月は目を閉じ優しい口づけを受け取った。
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