冬の晴れ間は空気は澄みきっていて空がいつもより高く見える。
木々を渡る風は冷たく、春はまだ遠い。

華月(かつき)は里の外れの小高い丘で樹の根本に寄りかかってぼんやりと空を見ていた。
闇色の髪は背中の中くらい、それを結いもせずにまっすぐ垂らしている。
白い小作りの面には、大きな翡翠の瞳。
齢18で里一番の『千里眼』の持ち主である。

「か〜つ〜きっ」

呼ばれて振り向けば、乳白色の髪の青年が満面の笑みを浮かべて立っていた。
里には余所で「鬼子」と呼ばわれ忌み嫌われる色素の薄い者が数多くいるが、中でもこの青年は特に体に色を持っていなかった。
柔らかな白い髪はほわほわと顔の回りを縁取り、その瞳の色は夕暮れの陽の色と同じ。
華月の幼なじみで恋人。
誰よりも近しい存在の彼は、華月を見つけるのがとても上手い。
隠れんぼで最初に華月を見つけるのも、哀しみに1人で泣いてる香月を見つけるのも、いつだって輝夜(てるや)だった。

「見ぃ〜つけた」

「何してたの?」

「ん、空…見てた…」

ふ〜ん、と輝夜は空をちらりと見上げると隣に座って開いた足の間に華月を抱き寄せた。
そのまま黙って華月の髪を撫でる。
華月は気持ちよさそうに喉をくんと鳴らして目を閉じた。

輝夜の腕の中は、華月の一番好きな場所だった。
暖かくて、少しどきどきして、安心できる華月だけの場所。

「雲が風に流れて…なんかいいなぁって」

晴天とはいえ、季節は冬。
長時間、風に晒された華月の体は冷えきっている。
輝夜は自分の体温を分け与えるかのように、華月の体を抱え込んだ。

「仕事が入ったのか?」

後ろから顔をのぞき込むように輝夜は尋ねる。
命を受けると、華月は必ずここに来ることを知っていたから。

「ん、明朝、出る」

「あ〜、出したくねぇ〜」

抱きしめる腕を力を強めて輝夜は呟く。
これもいつもいつものこと。
鬼や妖しを屠るのがこの里の仕事だ。
無事に帰って来れる保証などどこにもない。
現に、華月の両親は13の歳に還らぬ人となった。
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