13の時に両親が死んだ。
華月の両親は二人揃って「狩り人」だった。
物心ついた頃には、仕事に出ていく両親の後ろ姿を見送っていた覚えがある。
華月の世話は人の良い隣近所の者たちが代わる代わる見てくれた。それでも淋しい気持ちは押さえることができなくて、優しいおばさんの腕の中で遠ざかってゆく両親の後ろ姿を泣きながら見送ったのは幼い頃のこと。
鬼を狩るための修行を始めてからは「大丈夫だから」と近所の世話も辞退して1人で留守を守っていた。

冬の凍える夜の中、華月は恐ろしい悪夢の中にいた。

底冷えするほど空気は澄んで星が綺麗な夜だった。
両親が暗い森の中で戦っていた。
獲物は白い髪の鬼。
血走った両の眼からは止めどなく血の涙が流れ続け、黒ずんだ長い爪が空気を引き裂いて襲いかかる。
狩り人の力を込めた刀でさえもその鬼を屠ることができず、苦戦している様子が見て取れた。
長い長い死闘の果て、父は母を背に庇い、心臓を突かれて倒れ落ちた。
母もすでに戦える状態ではなかった。
崩れ落ちる父の体を支えることもできず、ただただすさまじい瞳で鬼を睨んだ。
視線で射殺せるのなら、きっとそれは可能であったろう。
その視線を楽しむように鬼は母の長い黒髪を掴みあげて、白い喉元に喰らいついた。
見開かれた母の目から、鬼と同じ赤い涙が一筋落ちた。
残酷な風景だった。
華月は眼を逸らすことすらできず、その一部始終を記憶に刻み込まされた。
事切れた母の遺骸を振り捨てて白い鬼がくるりと振り返り、在ないはずの華月を見た。
母の血で赤くそまった唇がにぃぃぃっとあがった。
残った左手が見えないはずの華月へと伸ばされた時、恐ろしい絶叫とともに華月は目覚めた。
夜着は汗でびっしょりと濡れていた。
しんとした部屋の中、華月は夢が夢でないことを知った。
遠見夢。
千里眼の能力の1つ。
修行を始めたばかりでまだその才が攻防視の何に向くかもわからないはずだった。
が、親を思う気持ちがその力を育てたのか。
華月の心は千里を駆け抜けあの場所に存在し、鬼の気をまっこうから受けてしまったのだ。

「うっ…」

荒い息で起きあがった華月は耐えられない吐き気に襲われた。
水場に行くだけの体力も気力も残ってはいなかった。
布団の上で、華月は吐いた。まるで生きることを拒否するように、嘔吐は止まる気配を見せなかった。
夜が明けて両親の訃報を知らせにきた狩り人の眼に映ったのは、冷え切った体を両腕で抱きしめたままガタガタと震えている華月だった。

すぐに里長の屋敷へと連れられた。
体を清められ、温かい香茶が用意された。
うつろな瞳で何の反応も示さない華月を見ると、長は何も言わずに布団を用意させて体を休ませるよう指示をだした。
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