俺が、退屈ではあるがかけがいのない人生を手放してしまったことに気付いたのはそれからすぐのことだった。

 その日、俺は例のごとく自分の安アパートのスプリングの壊れ果てたベッドでひたすら惰眠を貪っていた。
うつらうつらとらちのない夢を見ていた俺の耳に、 突然大音響のブザーが鳴り響いたのだ。
あせって飛び起きた俺はベッドから落ち、 腰をしたたかに打ち激痛にうめきながらもその非常識な音源を探した。
それは、なんとあの謎の男がはめていったブレスレットから発生していた。
多少、気味が悪かったものの外し方がわからなかったので、ずっと腕にはめていたままだったのだ。俺は焦りながら、ともかくこの音を止めなくてはとめちゃくちゃにいろいろなボタンを押しまくった。
 
そして、それは起こったのだ。
なんと、ブレスレットが人工音声で話しはじめたのだ。

「事件発生、事件発生。
 A地区78通りで強盗事件です。至急、向かってください」

「な、なんだぁ〜?
 これ、ラジオか?…いや、警察の電波が入ってきてんのかな?」

「『ミラクル・ハイパー・ウルトラ・ゴージャス・マスクマン(仮)』と叫んでください」

「はぃ〜?」

「さぁ早く!」

 これは、もしかしなくても俺に言ってるんだよな…寝起きの上に、どう考えても尋常ではない出来事の連続のおかげで俺思考能力は麻痺してしまったらしかった。
俺はブレスレットの指示にしたがった。

「え〜っと、みらくるはいぱあうるとらごーしゃすますくまん(仮)?」

「もっと大きな声で!」

「ミラクル・ハイパー・ウルトラ・ゴージャス・マスクマン(仮)!!!」

 白い閃光が俺を包んだ。
そして…俺は『ミラクル・ハイパー・ウルトラ・ゴージャス・マスクマン(仮)』に変身していた。

あの時、謎の男の話を話半分に聞いていた自分をどれだけ後悔したことだろう…あぁ、調子にのってあんな事を言わなけりゃよかった…せめて、『月なんとか仮面』あたりにしとけばよかった…。
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