子供は「ありがとう」と言って、広場へと駆け出しました。
ところが、すぐに引き返してきて、王子様の上着の裾を引っ張ると小さな声で言いました。
「優しくしてくれたお礼に教えてあげる。
ここのお祭りでは、人に勧められても何も食べたり飲んだりしちゃ駄目だよ。」
子供はそれだけ言って、飛ぶような足取りで広場へと走って行ってしまいました。
「何やら不思議なことを言っておったな」
王子様とジャンは顔を見合わせ、そして広場へと歩き出しました。
広いとは言えない広場に人々が溢れかえっていました。
端では音楽隊が賑やかな音楽を奏でています。
備え付けのテーブルで話をしたり、食事をしたりしている人々、そして軽いステップで踊っている人々。
不思議なのは、広場にいる人はみんな白い仮面をつけていることです。
「これは…祭りに参加するには白い仮面が必要なのか?」
王子様がジャンを振り返って聞きました。
けれども、それはジャンにもわかりませんでした。
そんな二人に踊っている人たちが気が付いて、手招きをしてくれました。
王子様とジャンは少しだけ頬を染めながらいそいそと踊りの輪に加わりました。
心弾むような音楽は続きます。
王子様とジャンも、ステップを踏みながら輪を何周も回りました。
やがて、疲れてきたので二人は踊りの輪から外れて、設えてある小さなテーブルへと移りました。
「こういう踊りもなかなか楽しいものだな」
「そうですね、でももう足がクタクタです」
隣の大きなテーブルに座っていた、白い仮面の人たちが王子様とジャンにこちらのテーブルに来て一緒に食べようと誘ってくれました。
王子様は心がウキウキしてとても楽しかったものですから、隣のテーブルに移ろうとしました。
ところが、席を立とうとした時に、ジャンがテーブルの下で王子様の上着を引っ張るものですから、立てません。
「何をするのだ、ジャン」
「いけませんよ、王子様」
ジャンは小声で言いました。
「広場の外で子供が言ったことを忘れちゃったんですか?」
ジャンの言葉に王子様はハッとしました。