そうです、王子様がビー玉をあげた子供が言っていました。
ここでは勧められた物を食べたり飲んでりしてはいけない、と。
「だが、実に美味そうだぞ」
王子様の目は隣のテーブルの料理に注がれていて、今にも手を出しそうです。
ジャンは急いで隣のテーブルの誘いを断りました。
「王子様、駄目ですよ。
あの子供はビー玉のお礼だと言って助言してくれたんです。
従っておいたほうが絶対に身のためです。」
そう言うと、ジャンは城から持ってきたオヤツをテーブルの上に並べました。
料理長自らが作ってくれたダージリンティーのマフィンと白桃のリキュールシロップ漬けです。
ポットからカップへと注がれたのは、白い湯気のたつホットチョコレートでした。
目の前に並べられたオヤツを見て、王子様は目を輝かせました。
「うむうむ、うちの料理長のオヤツはどこのものより美味しいからな」
心ゆくまでオヤツを食べ満足した二人は、今度は出店を見て回ることにしました。
広場の一番外側にいくつかの出店が出ていました。
あるお店はアクセサリーを扱っていました。
キラキラ光るブローチや、赤や青や緑の石の指輪、それに凝った趣向のペンダントなどが黒い布の上に並んでいます。
また、あるお店では吸い口から息を吹くと小さな鳥が飛び回るおもちゃなどを置いていました。
王子様はフワフワ飛ぶ鳥から目を離しません。
「ジャン、あれは面白いし、なかなか良くできているな。
ボクはあれが欲しいのだが…」
「ですが、王子様…」
コソコソと話している二人の脇から、仮面の人々がいろんな物を買っては去っていきます。
そっとのぞき見ると、やはり子供が言っていた通りお金ではなくみんなピカピカ光るものと交換しているようです。
「ワタシはピカピカした物など一つも持っておりませんし、王子様だって…」
「う〜む…」
王子様はしばらく小鳥のおもちゃを眺めておりましたが、やがて大きなため息を一つついて残念そうに言いました。
「今日は見るだけにしておこう」
それからも王子様とジャンはお祭りを楽しみました。
やがて、音楽がだんだん小さくなってきました。
踊りの輪に加わる人々の数もかなり少なくなっていました。