扉を開けると、そこは雪原でした。
二人はブルブルと震えながらも、どこかウキウキした気持ちで白い雪に新しい足跡をつけて行きました。

「ここはどこだろうな…」

ジャンは辺りを見回して、首を傾げました。

「な〜んか見覚えがあるような景色ですよね〜」

白い雪原の向こうには灰色の空が広がっています。
その境目に大きな山が霞んで見えました。

「えぇ?そんな…でも、あれは…」

ジャンが腕組みをして考え込んでいる間、王子様は雪に足跡ばかりでなく手の跡やら顔拓をつけて遊んでいます。
王子様の国では、雪はあまり降らないので珍しくてたまりません。
雪の上をゴロゴロゴロゴロ転がって、立ち上がろうとした時です。
王子様は雪原にぽつんと立っている小さな木を見つけました。
そして、その木に寄りかかる小さな女の子と目が合ったのです。
白い世界には眩しいくらいに、鮮やかな緑の髪をした可愛らしい女の子でした。小さな顔に不釣り合いなくらい大きな瞳は若葉のような色、唇は赤。それらの色が遠目にも見てとれるのは、肌の色があまりに白いからでしょう。

王子様は頬を赤くして服についた雪を慌てて払います。
ささっと髪と息を整えて、女の子の方へと歩き出しました。
女の子も王子様を見ています。
近づけば近づくほど、女の子が可愛らしく見えてきて、王子様は胸がドキドキしました。
手を伸ばせば届くくらい近づいてから、王子様は女の子に声をかけました。

「やぁ、君はここで何をしているんだぃ?」

女の子は王子様の顔を見てにっこりと微笑みました。

「春を…春を待っているのよ」
『赤い木の実』
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