お腹もほどよく満腹になったところで、王子様は出発することにしました。
「よし、今度こそ本当にいくぞ」
人魚に聞いた化け物の住みかは、大きな大きな沈没船でした。
大きな岩と沈没船の影が、上から降り注ぐ光と交わりあってなんとも不気味な雰囲気を醸し出しています。
王子様は万が一の為にいつも常備している短剣を抜きました。
その短剣は王子様がT0歳の誕生日に父親である王様がプレゼントしてくれたものでした。
それに、城の魔法使いが魔法をかけてくれました。
「これで、切れるものなら何でも切れるようになりましたよ」と魔法使いが言った時、王子様は「それじゃ、普通の短剣と何も変わらないじゃないか」と思いました。
けれども、心の中で思っただけで、決して声には出しませんでした。
もし、そんなことを言ったものなら、魔法使いはムキになって色々な魔法を試すでしょうし、そんなことになったら短剣は何年かかっても王子様の元には戻らないでしょう。
王子様とジャンは沈没船の側に近づくと、静かに静かに中をのぞき込みました。
真っ暗な中で何かがゆらりゆうらりと蠢いています。なんだかそれはとっても大きなもののようです。
王子様とジャンはそれはそれは怖くなってしまいました。
チン。
王子様は震える手で短剣を鞘に戻しました。
「…ジャン…」
そして、王子様は震える声で言いました。
「お、王子たる者、決してひるんではいかん。いかんが…王子たる身はボク一人の体ではないのだったな。ボクは国の象徴、ボクの身に何かがあれば国が揺らぐ。時には勇気有る退去も必要であるよな」
「はいぃ〜、仰せのとおりでございます〜」