「長からの伝言。
輝夜も可愛い養い子ならば、華月も儂にとって掛け替えのない里の愛し子じゃ、だって。
失う者を選べなかったから、双方を失わないような手筈を考えた。
儂は強欲なんじゃよ、ほっほっほ」
笑い方まで真似をする芸の細かさを見せて、輝夜は華月の耳の後ろに口付けを落とす。
頭が混乱したまま華月は眉間に皺を寄せる。
「私の様子が変だったって?」
「仕事に出る前の一週間、妙に優しかったし…」
「優しい?」
華月には覚えがなかった。
不審に思われないようにいつもの生活をことさらに心がけていたはずだ。
「うん、優しかったよ。
術の研究をしてる時にも俺のこと邪険にしなかったし〜。
それに仕事の見送りの時だって、俺の気が済むまで抱きしめさせてくれたし〜」
そんな些細ことで見抜かれてしまったのか…華月は1人で思い詰めて頑張っていた己が可哀想になった。
「ねぇ、『先見夢』見たんだって?」
軽かった口調をいきなり真面目なものに切り替えて、輝夜が額と額をこつんと当てた。
ぴくん、と震えた華月の体を左手でつよく抱きしめて、右手でその髪を撫でる。
「ごめんね。
俺があんなこと言ったから…夢見たこと言えなくなっちゃったんだよね?」
「あ…」
疲れていた心に輝夜の言葉はさっくりと入り込んできて…華月は溢れる涙を押さえることができなかった。
「あぁ、泣かないで。
華月に泣かれると俺どうしたらいいのかわからないよ」
そう言って、優しく涙を拭われて子供にするように背を何度も撫でられて。
「1人で辛いことを我慢しないで。
華月を護るために俺がいるんだから」
背を撫でる仕草はそのままに優しい声で話しかけられた。