早めの夕食を終え、華月は自宅に戻った。
輝夜と手を繋いで通い慣れた夜道をゆっくりと歩いた。

「泊まっていけばいいのに〜」

いつも交わされる言葉が今宵はことさら甘く感じられた。

「仕事の準備があるから、無理なのはわかってるでしょ?」

「それはそうなんだけどさ〜」

「なら、輝夜がうちに泊まってく?」

輝夜が華月の家に泊まることを自制しているのを承知で、そう問いかけてみた。
華月から泊まることを提案したのは初めてだった。

「うっ…いいの?」

空いてる方の手で胸を押さえて輝夜が上目遣いに華月の瞳を覗き込んだ。

「別に私は構わないけど?」

誘ったことはないだけで、輝夜が家に来ることを厭った覚えは一度もない。
いつもなら言わないはずのことを言ってしまったのは、やはり心のどこかで明日の仕事を不安に思っているからなのだろうか。

「あ〜、すっげぇ嬉しいけどやっぱ止めとくわ」

輝夜は上気した頬で繋いだ手をぶんぶんと振り回した。

「華月の家に泊まるようになったら、俺、もう片時も離せなくなっちまうもん」

「あはは、それは困るね」

「うん、仕事に着いてって、俺の仕事にも連れてって…」

「長にめちゃくちゃ怒られちゃうね」

「そうそう…」

あり得ないことを嬉々として話し続けているうちに家に着いた。

「じゃ、おやすみ」

額と瞼と頬と唇に優しい口付けを落として、輝夜は今来た道を戻っていった。
姿が見えなくなるまで見送る華月に、時折振り返って大きく手を振りつつ輝夜は帰った。
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