「ほら…やっぱり怒ってるじゃない…」
小さな声で呟いてみれば、横を向いて盛大なため息をこれ見よがしにつかれた。
「俺はね…怒ってるわけじゃないよ…いや、やっぱり怒ってるかな」
「な、…怒ってないって言ったじゃない…」
「仕事柄、負傷する危険が多いってのは俺だってよくわかってるけど。
でもね…頭ではわかってても気持ちが納得しない。
華月が傷つくのは嫌だ、ほんとだったら髪の毛一筋の傷すら付けて欲しくない」
華月は息もできない程抱きしめてくる輝夜の手が震えているのに気づいてしまった。
大きな背に腕を回した。
たったそれだけの動きですら今の華月には大儀だった。
「ごめん…心配かけて…」
ことさら力を込めて抱きしめてくる輝夜に言葉を続ける。
「足止め用に呪符を持ってってたんだけど、全然効かなくって…」
腕の力が少し緩まったのを少し不審に思いつつも説明しようとさらに重ねて言う。
「雷の網を作ったんだけど腕一振りで消されちゃって…そうだ、あれを水の網にしてかかったところで雷を落とせば…」
状況を説明しようと記憶を遡った華月だったが、そのうちに術の構成に意識が向かってしまう。
戦う力を求めた華月は、得られなかったものの代わりとなる術への興味に里にいる時間の殆どを使うことを何よりの楽しみとしていた。
いきなりブツブツと呟きながら自分の世界に入ってしまった華月に、輝夜は脱力したように小さな方に頭を落とした。
「…ったくぅ〜、反省したかと思えば一瞬だし〜。
俺、ほんとに寿命が縮むくらい心配したんだよ?
華月、意識ないし、雷澱なんかに背負われちゃって…俺、ほんとに心臓止まるかと思ったんだよ?」
「…ごめんなさい…」
自分の腕の中に戻ってきた華月を輝夜は優しく抱きしめた。
「ともかく今は体を治すのが先決だからね。
術のことを考えるのはもっと後にして、もうしばらく寝なさいね」
輝夜は布団を肩まで掛けてポンポンと子供にするように優しく叩いた。
定期的なその重みは、遠い昔を呼び起こすかのようで…華月は重たくなってきた瞼をそのまま閉じた。