熱でぼんやりする頭で、雷澱の言葉を聞く。
背負われて体が密着しているせいか、低い声が細かい振動を伴って直に体に響くようだった。


「なぁ…香澄のこと、覚えているか?」

忘れるはずはなかった。
雷澱の相棒で彼の恋女房。
「狩り人」の雷澱と「千里眼」の香澄。
夫婦揃って仕事に出るのは華月の両親と同じだった。
香澄には同じ『千里眼』の能力を持っていることもあって、いろいろと教えてもらったり相談に乗ってもらったことも数しれない。
優しくて明るい素敵な人だった。
2年前に黄泉へと旅立ってしまったけれど、その優しい笑顔は瞳を閉じればすぐに思い出せる。
香澄は華月の中で生きている。両親と同じように。
そして、きっと雷澱の中でも鮮やかに生き続けているのだろう。

華月はぼんやりとした頭で考えた。

雷澱がいきなり香澄のことを話し始めた理由。
香澄が『先見夢る』を見ただなんて初めて聞いた。
自分の知る香澄はいつも穏やかに笑っていて、悩みがあるようには見えなかった。
香澄もあの微笑みの下で、いつ来るとも知れない最後の時に怯えていたのだろうか…。

雷澱は見かけや口調が男臭さにみちていて大雑把な人間だと思われがちだが、実のところはけっこう繊細で観察眼にすぐれ頭も切れる。
きっと雷澱には華月が『先見夢』を見てしまったということが分かってしまったのだろう。


回りを信じろ…と雷澱は言うけれど。
一番信じたい人は、私が死んだら一緒に死ぬんだってサ。
どうすりゃいいのよ…訳分からないよ。

雷澱の中には香澄さんは生きているんでしょ?
そこにいるんでしょ?
共に歩むことができないのなら、せめて彼の中で生きたかった…。

香澄さん…今、香澄さんと話したいよ…。
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