高熱に苦しげな呼吸を繰り返す華月を背負い、休むことなく歩き続けた雷澱は日暮れる前にどうにか里のある山へと辿り着くことができた。
山の中腹にある子供の背丈ほどの岩の前で印を結ぶ。
空気が揺らめいて隠れ里が姿を現した。
里へと足を踏み入れた瞬間、ざわりとまわりの空気が殺気に満ちた。
ほんの一瞬だったが、明確なる意志を雷電に伝えた。
「隠れてないで出てこいや」
苦笑いを隠さずに、大木の後ろの影へと声をかけた。
物音1つ立てずに出てきたのは、華月の幼なじみ。
意識のない華月を見て、輝夜の瞳が揺れる。
「華月っ!」
剥き出しの嫉妬を露わに射抜くようにこちらを睨む輝夜を見て、雷澱は何とも言えない表情になる。
優しいだの穏和だの、輝夜を評している里の娘たちに今のこいつを見せてやりてぇ。
「…ったく、そう毛を逆立てるな。
別に華月に悪さをしたとかってんじゃねぇんだからよ。
怪我をしてな…発熱している
俺の力不足で華月には無理させちまった
…済まなかったな…」
背の華月をそっと、輝夜の腕に預けた。
「俺はこれから長に報告してくる。
華月の看病は頼んだぞ」
とまどう輝夜にそう告げて、雷澱は長の屋敷へと足を向けた。