僕は辺境の小さな町で生まれた。
父親はいなかったが、母親と二人、貧乏でもそれなりに幸せに暮らしていた。

 だが、最近の僕に何やら異変が起きつつあった。
自分の思うように身体を動かすことができない時間があるのだ。
いや、それどころか、自分の意志に反して勝手に身体が行動してしまうのだ。

昨日は、近所の家に忍び込んで、勝手に箪笥やら戸棚を物色し金品を盗んでしまった。
僕はこのままでは、立派な犯罪者になってしまう。
こんなことは誰にも言えない。
相談する人もなく、僕は悶々とした日々を過ごしていた。

ある日のこと、僕の体は町の外まで出て、襲って来た盗賊を返り討ち、反対に金を巻き上げた。
そして、その金で新しい武器を購入した。
あの盗賊たちが逆恨みで襲って来たらどうしよう。
僕は恐ろしくて夜もおちおち眠れなくなってしまった。

もちろん、それがずっと続くわけではない。
たいていは教会に行ったときに、いきなり自由になるのだ。
僕が心の中で、助けを求めているのが、神様の元に届いたのかもしれない。
だけどやっぱり、神様は教会にだけいるのかもしれない。
なぜならば、僕はいつでも助けを呼んでいるのに、教会に行った時にしかその奇跡は起こらないのだから。

…そして、その症状はまだまだ続いた。
そうやって貯めた金で、防具やら薬草やらを買い、袋に積めて今度は町外れにある洞窟へと向かったのだ。
そこは魔物が出るという噂の洞窟だ。
小さい頃から、あの洞窟にだけは近づいてはいけない、と母親から口を酸っぱくして言われ続けた洞窟。

僕だって、そんな怖い場所になんて行きたくない。
そんな僕の意志を無視して、足は勝手に洞窟へと入って行く。

暗闇の中、吸血蝙蝠が襲って来た。
新しい武器は鉄の剣。
あっと言う間に、やっつけてしまう。早く家に帰りたいのに、僕の足はどんどん奥へと向かって行くんだ。まるで、誰かが操っているみたいに・・・。

やがて、洞窟の最奥に着いた。
そこには、今までで見たこともないような大きく、そして醜悪なゴブリンが。
見ただけで足がすくみ、腰砕けになる。
それなのに、僕の腕は剣を振り上げ、足は敵へと向かって行くのだ。
買ったばかりの剣も、ゴブリンの分厚い皮膚を貫くことはできなかった。
僕は頭に衝撃を受け、そして、意識が遠ざかっていった。
そんな僕の頭の中で、誰かが囁いた。

「おぉ、勇者よ、死んでしまうとは情けない。・・・記録の書を読み込みますか?」

勇者の悲劇
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