犬の首には緑色の首輪がはまっていました。
そして、銀色の鎖が犬小屋の脇の木の柱に繋がっているのをるぅは見ました。
るぅが鎖を凝視するのを見て、老犬は言いました。
「ワシは自分を不幸だと思ったことは一度もないよ。
老犬は庭に寝そべりました。
「ワシは生まれてすぐにこの家に引き取られてきた。それからずっ と可愛がってもらってるし、ワシもご主人さまを愛している」
そう言ってから、老犬は首を振って鎖をジャランと鳴らしました。
「これだってな…外そうと思えば、こんなモン簡単に外すことがで きるよ。
だが、ワシがそうしないのは、そんなことをしたらご主人さまが 困るのを知っているからだよ。」
『困る?』
「こういう人間の町ではな、犬を放し飼いにしてはいかんと決まっ ているんだ。町には小さな子供が我々に襲われるんじゃないかと 怖がる人間もおおぜいいるってことだ。」
『そんなっ』
「わしらのために怒ってくれてありがとよ。
だが、たしかに人間に捨てられてそれを恨んで襲う仲間もいるん だ。」
老犬は悲しそうにうつむきました。
「だが、ワシはな…。
ワシは自分を不幸だと思ったことは一度もない。優しいご主人さ まに恵まれて、食事も散歩もきちんとやってくれる。休みの日に は、一緒に遊んでもくれる。ワシは幸せモンだよ」
そう言って老犬は誇らしげにご主人さまがいる家を見つめました。
「ただ、犬と生まれたからには一度でいいから、思う存分力の限り 走ってみたいんだ、どこまでもどこまでも…な」
『ボクにできるのは夢を見せることだよ
現実には走れない。それでもいいの?』