その夜、るぅの元に届いた信号は小さな不思議なものでした。
眠りたいのに眠れないというわけではないようです。
けれども、何かとても切実な感じがしました。るぅは、夜の空をフワフワと泳ぎだしました。

るぅがたどり着いたのは、電気もついていない古い一軒家でした。
暗い窓からのぞき込んでも誰もいません。るぅは不思議に思いました。
けれども、信号は間違いなくこの家から発信されたものです。

 るぅは家の中へと入っていきました。灯りがついている部屋はひとつもありません。それどころか、その家のどの部屋には家具の一つもありませんでした。引っ越した後なのでしょうか…住んでる人はいないようです。

一番奥の突き当たりの部屋に入った時、るぅは自分を呼ぶ声を聞きました。
カーテンもない窓から、月の光が淡く影を作ります。
その影の隅っこに、一匹の猫が横たわっていました。優しい色合いの茶虎の猫です。背中や目や口元の毛が白くなっているところをみると、どうやら老猫のようです。
るぅがフワフワと近づいていくと、老猫は待っていたよ、とでも言うかのように「にぁ…」と鳴きました。それだけで充分でした。るぅにはわかりました。

この猫のご主人様はもういないのです。この世界のどこを捜しても…。捜して捜して、けれども見つからなくて、ご主人様のいない、でも思い出だけが残っているこの家へと帰ってきたのです。
 ご主人様を捜して歩いた足はもうボロボロでした。
余所の猫のテリトリーに入ったことでケンカをしたことも数え切れないくらいありました。
捜したくても、もう体は動きません。けれども、老猫は最後にご主人様に会いたかったのです。例え、それが夢の中でのことだとしても、どうしてもどうしてもご主人様に会って、その暖かな腕に抱かれて安心して眠りたかったのです。その気持ちが、るぅの元へと届きました。

るぅは老猫の周りを大きく小さく回ります。
老猫が安心して眠れるように優しい声で呪文を唱えながら…。そんなるぅをじっと見ていた老猫は、やがて目を閉じました。そして、小さく「にぁ…」と鳴くと、夢の中へと還ってゆきました。
…「ありがとう」… るぅには、そう聞こえました。確かにそう聞こえたのでした。

おやすみなさい、よい夢を…。
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