今日は王国の「鎮霊祭」です。
死者の魂を鎮めるためのお祭りなので夜に行われます。
王子様も当然列席しますが、忙しいのは夜からです。
そこで、王子様とジャンはいつものとおり、お散歩に出かけることにしました。
扉を開けると、そこは夜の森でした。
どこからか、マンドリンや笛の楽しげな音が聞こえてきます。
「あの音楽は何だろう?」
「なんだかお祭りっぽいですね」
王子様とジャンは、その音を頼りに歩き始めました。
暗い森の中、降り注ぐ月の光だけが頼りです。
足元の木の根に躓かないように、王子様とジャンはゆっくりゆっくりと歩いていきます。
少し先で森が途切れて広場のようになっているらしく、眩しい光が見えました。王子様とジャンの足取りは少しだけ早くなりました。
いくら足元に気をつけようとしても、心躍る音楽が聞こえてきたら、ゆっくり歩くのは至難の業ですものね。
広場まであと少しという時です。
王子様は木の茂みに隠れるように座り込んでいる子供に気が付きました。
どうやら泣いているようです。
「何を泣いているのだ?」
王子様は子供をのぞき込んで尋ねました。
小さな小さな子供です。顔には白い仮面をつけています。
「光る玉を失くしてしまったの…」
子供は涙声で答えました。
王子様とジャンは顔を見合わせて首を傾げます。
光る玉とは何のことだかわからなかったのです。
「光る玉とはなんだ?」
子供はしゃくりあげながらも、小さな声で答えます。
「ここのお祭りではお金の変わりに光るモノを使うの。
ぼくも一つだけ持ってたのに、それを失くしちゃったの…一年の一度しかないお 祭りなのに、ぼく、何も買えなくなっちゃった…」
『小さな白い仮面』