「森の入れるように呪文をかけただけよ。
この森には、人間が入ってこれないように結界が張ってあるの」
そう言うと、女の子は箒に跨り、二人に言いました。
「さぁ、私について来て。主木のところに案内するわ」
王子様とジャンは訳がわからないながらも、女の子についていくことにしました。
女の子は箒を上手に操って木の間をすいすいと飛んでいきます。
王子様とジャンは小走りになりながらも女の子を見失わないよう一生懸命ついていきました。
「やっぱりなんだかこの森は怖いですね」
「そうだな…薄気味悪い…」
二人がそう話していたら、女の子がすいっと降りてきて怒ったように言いました。
「本当はこの森は穏やかで優しい森なのよ。
『まやかしの森』と呼ばれていても、それはあくまで人間に対するまやか しの結界のためだけで、動物たちがたくさんいる綺麗な森よ」
王子様とジャンは辺りを見回しました。
が、動物たちの気配などちっとも感じ取ることができません。
「今はいないわよ。
動物達は森の異常を感じてみんな隠れてしまったもの」
「森の異常?」
女の子の言葉を聞いて王子様は眉をひそめました。
どうも先ほどから聞いていると、なにやら主木の身に何か大変なことが起こっているみたいなのですが、それが何なのかちっともわからないのです。
「主木に下級妖魔が寄生しようとしているのよ。
私はそれを阻止しようとしていたんだけど、一人じゃなかなか思うように 行かなくて…
だから、あんたたちが来てくれて丁度良かったの」
「か、下級妖魔ですって…?」
気弱なジャンが震え上がりました。
王子様も妖魔と聞いて、内心少しだけ怖くなってしまいましたが、王子たる者気弱なところは見せられないとやせ我慢をしました。