小道をしばらく歩くと、ジャンの記憶どおり不思議な庭園が姿を現しました。
以前とは何か雰囲気が違っているようです。
もしかしたら、王子様と一緒に訪れた時とは遠く隔たった時間に来てしまったのかも知れません。
その事に思い当たったジャンは真っ青になりました。
心を落ち着けて目を凝らして庭園の草花を観察してみました。
違いはすぐにわかりました。
以前の庭園には不思議な草花しか植えられていませんでした。けれども、今、目の前の庭園にはジャンにも知っている花や、王子様が気に掛けた花がたくさん植えられておりました。
ジャンは『ユニコーンの涙』について、詳しい話を聞くために、老人の家を尋ねました。
ここに住んでいるのが、老人ではなくジャンの知らない誰かだったら…そう思うと、ノックする手が震えます。
「どなたかの?」
聞き覚えのある声が帰ってきて、ジャンは心底嬉しくなりました。
扉を開けて顔を見せると、老人は驚き、そして笑顔でジャンを迎えてくれました。
「久しぶりじゃの、兄さんや。
庭園は見てくれたかの?」
老人はジャンにイスをすすめ、お茶を入れてくれながら話しかけました。
「はい、不思議な香草だけでなく、いろいろなお花を植えたんですね。
とてもキレイです、ワタシはとても好きですよ〜」
「そうか、そうか」
老人は目尻を下げて、それは嬉しそうに微笑みました。
「あの若いのに言われてな…あれから考えたんじゃよ…ほんとうに若いのの言う通 りじゃ った…ワシは珍しい物だけを集めることに夢中になって、植物の本来の 美しさを見失っ ておったんじゃ…おや、今日はあの若いのは一緒ではないの かの?ワシの目を覚まして くれた礼のひとつも言いたかったんじゃが…」
老人のその言葉で、ジャンはこんなところで悠長にお茶などしている場合ではないことを思い出しました。