「何をそんなに泣いているのだ?」
人魚に近づいた王子様は優しく尋ねながら、人魚の涙を一粒すくって、そぅっとポケットにしまいました。
「私の恋人が化け物に連れ去られてしまったのです」
人魚は真珠を惜しげもなく落とし続けながら答えました。
王子様はジャンを振り返りました。
「ジャン、婦女子が泣いている時はその要因を速やかに排除し、微笑みを取り戻すのが紳士たるものの努めだったな」
王子様たるもの、いついかなる時も人民の鏡となるべく教育されているのです。
「はっ、仰せのとおりでございます」
忠実なる世話係のジャンは、あまりに立派な王子様の言葉に、内心冷や汗をかきながら跪いて同意を示します。
「よし、彼女の恋人を連れ戻しにいくぞ」
今日のお散歩の目的はこれで決まりました。
「その前に、まずおやつだ。腹が減っては戦はできぬ、だからな」
今日のおやつはゴールデンアップルパイです。
ゴールデンアップルは王子様の国にある小高い丘にある大きなリンゴの木の実で、本当に金色のリンゴです。
王子様はこのリンゴで作ったアップルパイが何よりも大好物なのでした。
「あぁ、美味しい。
ジャン、お前の父親は本当に料理上手だな」
「お褒めに預かりまして光栄でございます」
ポットから注いだカカオティーを王子様に手渡しながら、ジャンは頬を赤く染めました。お城の料理長はジャンの父親なのです。
ジャンがパイを一つ食べる間に、王子様は残りのパイを全部平らげてしまいました。王子様はとてもたくさん食べるのです。そして、食べるのがそれはそれは早いのです。