戦士がゆっくりと立ち上がる。
いつ攻撃を受けても対応できるよう、カイルの一挙一動に神経を尖らせているのが身にまとわりつく視線でわかる。
カイルは相手にわかるようゆっくりと口角を上げてから、剣先を相手の首に向けてすぅっと横に掻き斬る動作をしてみせた。
戦士は一瞬目を大きく見開き、次の瞬間には大きな咆吼を上げてカイル目掛けて突っ込んで来た。
カイルはそれを正面から受けとめ右へと流すと、返す動作そのままに懐へと剣を繰り出した。
2合、3合と剣の交わる音が重たく響いた。
斬りかかっては防ぎ、防いでは斬りかかる。
それを何度も繰り返しながら、カイルは少しずつそのスピードを上げていった。
己に余計な力が掛からないように流すカイルと違い、真っ向から受け止める戦士は腕に剣の重みが残るため次第にその早さについていけなくなっていく。
カイルの剣が小手を微妙にずらした手首の位置を幾度目か叩いた時、とうとう戦士の手から大剣が落ちた。
すかさず拾おうとする戦士の首筋に剣を見舞おうとしたカイルの眼に、戦士がすばやく右腕の小手を操作するのが映った。
剣を拾いにいったはずの右腕はカイルに向けてまっすぐに伸ばされている。
危機感がカイルの脳裏によぎった。
その直感に従って、すかさずカイルは横に飛んだ。
とっさに出した小剣が何本かの細い針を顔の直前ではじき飛ばした。
が、全ては受けきれなかったようで、カイルの左の頬と耳から幾筋かの血が流れた。

仕込み武器か…やってくれるネー。

利き腕にも大きめの小手をはめているのは妙だと思っていたが、どうやら針が噴出するカラクリだったらしい。
カイルは小剣を元のように鞘へと仕舞うと、頬に流れる血を指ですくってぺろりと舐めた。
起死回生の攻撃を防がれて、呆然とする戦士に対して血で彩られた唇でにぃぃっと笑う。
唇は笑みをかたどっているにも関わらず、その薄碧の瞳に温度はない。
カイルは剣を逆手に持ち変えると勢いよく回し始めた。
剣は右の手から左の手へと眼にも止まらぬ早さで渡り、カイルの回りに風を起こす。
見たこともないパフォーマンスに観客はこれ以上ないくらいにわき上がる。

ビュンビュンという音と共に、足元から砂煙が巻き起こる。
戦士は大剣を拾い構え直したものの、剣の軌跡を追うことができずその場に立ちすくんでいた。
一際高く風が鳴る度に、カイルからの攻撃が繰り出されてくる。
が、あまりの素早さに戦士の身体は反応できず、そのたびに少ない露出部分に傷が増えていく。
為す術のない恐怖に戦士の身体が竦んだ頃、カイルはなぶるのに飽きたのか唐突に最後の一撃を繰り出した。
勢いに乗った一打は違うことなく相手の胸を強打し、戦士は仰向けにどぅ、と倒れた。
観客がそれに気付いた時には、カイルの剣が戦士の首筋に当てられていて、試合の勝敗は決した。

「悪いね、俺の勝ちだ〜ね〜」

カイルは胸に足を置いたまま、戦士にそう誓言する。
悔しそうに唇を噛みしめ、憎しみの籠もった視線をよこすものの急所を押さえられた戦士は動くことができない。
自身を焦げ付かせるほどの熱を持った視線をカイルは心底楽しそうに受け止めた。
このまま喉をかっ斬ったら…ぞくぞくする想像にカイルは喉の奥でくくく、と笑う。
審判から試合終了の指示が出されて、カイルは渋々足をどけた。

「くそっ、このままで済むと思うなよ。
 『白銀のカイル』と呼ばれていい気になっているがいいっ、今に仲間と共に後悔させてやるからなっ!」

戦士は四つん這いのまま、土を巻き込んだ拳を握りしめてそう叫んだ。
その声すらも、カイルの勝利を祝う歓声のうずに巻き込まれて消えた。
カイルは敗者に冷笑だけを浴びせ、競技場を後にする。

その後ろでは、試合終了の鐘がいつまでも競技場に響きわたっていた。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送