体を動かしたので冷たい飲み物がよいだろう、とエリカは木イチゴのジュースをグラスに注いた。
用意した二つのグラスを盆に乗せて、居間のテーブルへと運ぶ。

こくり、と一口飲んでカイルを見れば、笑いを含んだ瞳と視線が絡む。

「ね、さっきの俺、エリカちゃんにはどう見えた?」

エリカは手合いの時のカイルの動きを思い出しながら慎重に答えた。

「ゼレントが動くと同時にカイルさんも動いてましたよね…まるでゼレントがどう動くのかが見えているかのよう。
 ううん、途中からは私の方を見ていたわ。
 …眼で見ているわけじゃないんですね、風を感じている、そんな感じでした」

エリカの言葉にカイルは嬉しそうに椅子をガタガタと揺らした。
その上、パチパチパチ…と拍手をしながら大正〜解と腕で大きな丸を作る。

「さすがエリカちゃん。
 思った通りだ、しっかりわかったみたいだね〜」

くくく、と笑いながら、テーブルの上に組んだ腕に顔を乗せ上目遣いにエリカを見る。
薄い青の瞳が髪の影に隠れて色に深みを帯びた。
造り物のように端正な顔だちなのにくるくると変わる表情がいくつもの印象を与えている。
女には不自由しない男、とナーラは言ってたけど、たしかにこれなら寄ってくる女は後を立たないだろう、と思う。

「それが俺の秘密。
 俺の属性は風。それもものすごく相性がいいんだ。
 でも、ナーラやゼレントも知らないことだから、二人だけの秘密だよ?」

確かに自然の力を操ることに長けているエリカだからわかったことだろう。
「二人だけ」という箇所をことさら強調するように言ったカイルには、秘密という言葉を使ったものの知られたら困るといった重さは感じられなかった。
知られたとしても負けないだけの強さをカイルは充分に持ち合わせているのだろう。

「武具用魔石が使えないと言ったのはそのせいですか?」

「あぁ、魔石を身に付けるとその力に邪魔されて風が感じにくくなるんだよね〜」

だから使わないのだと言うカイルの言葉にエリカは一抹の寂しさを感じる。
研ぎ澄まされた刃のような戦い方をする男。
彼が自分の術を使った時、それはきっと見惚れるほどに綺麗なのではないか…。
見てみたかった。
使わないというものを無理強いする気もないけれど。

「あらあら、お客様を1人捕まえ損ねてしまいました」

小さなため息をついて軽くおどけてみせるエリカをカイルは微笑ましく見つめた。
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