「すご〜い、迫力のある手合いでした」

「お二人さんとも、お疲れ〜」

労いながら、エリカとナーラが歩み寄ってきた。
ゼレントの汗をタオルで拭ってやりながら、ナーラが言う。

「あいつ相手には善戦してたと思うわよ。
 うん、よくやったわ」

興奮さめやらぬ様子でやってきたエリカの唇をカイルは人差し指でそっと押さえた。

「俺が強いわけ、エリカにはわかったでしょ?
でも、これは秘密だから今は内緒にしておいて」

その耳元に囁きかけて、悪戯小僧のようにウィンクを送る。
エリカが不思議そうに小首を傾げた。

「今は?」

「うん、あとでちゃんと説明してあげる。
 それとも知りたくない?」

ぶんぶんと力の限りに首を振るエリカ。
肩で揃えた薄茶色の髪がふわりと広がり、シャラリと音を立てる。

「でも、いいですか?
 秘密なんでしょう?」

秘密という言葉に反応して、ナーラやゼレントに聞こえないよう声を潜めて話すためにエリカが寄り添ってきて二人の距離はとても近い。
触れそうな肩を感じて、その細さを己の手で実感したい誘惑をカイルは笑みに隠した。

「いいんだよ〜。
 俺の望みは叶ったから。」

「カイルさんの望み?」

「うん、仕事してる時の瞳で俺を見て欲しかったの。
 練習場で見た時からずっとそう思ってたから、今日はすんごく満足」

どう聞いても口説き文句にしか聞こえないようなことを囁きながら、カイルは眼を細めて猫のように伸びをした。
ぼっと頬を紅く染めて、エリカが視線を宙に泳がす。
そんな風情も初々しくてなんとも可愛らしかった。

「ちょっとそこ、何、密談みたいにしてるのよっ」

目ざといナーラの声に、弾けるようにエリカが距離を取る。
遠ざかる体温に、カイルは少しだけ寂しさを感じた。

「密談なんてしてませ〜んよ。
 仲良しなだけだよね〜」

ね〜、と目尻を下げた笑い顔で同意を求めるカイルを見て、エリカもついつられて頬が緩んでしまう。
戦っている時は鋭い光のような人だと思ったものの、ナーラから聞いていた人物像と目の前にある無邪気な笑顔はあまりにも違った。

「中で少し一休みしましょうか」

身支度を整えたゼレントとナーラは、エリカの提案を申し訳なさそうに断った。
しばらくは滞在するために日用品の買い出しに行くのだと言う。
残念そうなエリカとは対照的にカイルは小躍りするばかりに喜んでみせる。

「あ〜そう、んじゃ気をつけて行ってきなよね〜」

ひらひらと振る指の先まで嬉しそうだ。


「エリカに悪さするんじゃないわよ」

面白くないとばかりに釘を差すナーラにも、「俺はいつでも良い子だよ〜ん」とへらへら笑って交わしている。

「エリカ、こいつがなんかしたら風の術で五寸刻みに切り刻んでいいからねっ」

物騒な言葉を残して二人が帰って行った。
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