そろそろ大会の登録手続きにでも行こうかと部屋を出たカイルは、偶然ナーラたちと鉢合わせした。

「あら、お出かけ?」

「あぁ、選手登録してこようかと思って」

「そうね、そろそろしておいた方がいいわ。締め切り間際になるとものすごーく混むから」

ナーラが詳しいのは、故郷の大会だからというだけではない。
それぞれが年度は違えど過去の大会優勝者なのだ。
『炎舞のナーラ』、『鬼神のゼレント』という二つ名は伊達ではない。実力と今までに培った経験から付けられたものなのだ。

「ナーラたちはどこ行くの?」

一応、『たち』という聞き方をしたものの、こういう時の主導権はいつもナーラにある。

「ん〜、どこってこともないけど、いいかげん体を動かさないとなまっちゃうからね。
町外れの森で鍛錬にいい場所があるから、そこ行こうかと思ってるのよ」

「それならいいけど、あんまり王宮当たりには近づかない方がいいかもヨ。
 大国中の傭兵たちが集まってるわけだし、あんたら目立つからね」

「あら、心配してくれるの?」

「まーねー」

この時期に彼女たちがここに来たのには理由がある。
それは、ちょっとしたいざこざに巻き込まれたからだった。
前回での雇われた傭兵の中の1人がナーラに懸想し、言い寄ってきたのだ。
ナーラとゼレントの仲は周知のことであるというのに。
当然、ナーラは歯牙にもかけず適当にあしらっていたのだが、その男はしつこいたちだったらしく、雇われた期間中ずっとまとわり続けた。
仕事に支障をきたすわけにはいかないと我慢に我慢を重ねていたナーラだったが、仕事を終えてまでまとわり付いてきたとあって、とうとう爆発した。
祝杯を上げていた居酒屋で、性懲りもなく体に触ろうとした右腕を警告することなく切り落としたのだ。
痛みに床をのたうち回る男を仲間が慌てて囲んだ。
その中の剣を構えた数人は、ナーラの前に出たゼレントが無言で背の大剣を抜いた時点で慌てて店を飛び出していった。
残る者たちも後を追うように出ていったのだが、失くなった腕を押さえながら血の気の失せた顔で男はお決まりの捨て台詞を吐いていったのだ。
いわく、「覚えていろよ、この礼は必ず返す」と。
あれだけ付きまとった粘着質の男のことだから、そのうちに仕返しに来るであろうことは想像にかたくなかった。
カイルとしては何も同業者が集まるこの時期にこの街に来ることもないと思ったのだが、「自分たちは間違ったことはしていないし、別に身を隠すつもりはない。あの街では思ったより話題になって人の視線がうっとおしいし、故郷で骨休めをしにきただけよ」とあまりにナーラらしいことを言うので、カイルはそれ以上何も言わなかった。
別に自分が当事者なわけではないし、二人がそう思うならそれでいい。
何かあっても自分で自分の身を守れるだけの強さも持っている。
まぁ、助けを求められたらできる範囲での助力は惜しまないくらいには気に入ってる奴らだし、できることなら何もないといいなと思いつつ。

「んじゃ、行ってくるワ」

宿屋の前でヒラヒラと手を振って別れた。



***



王宮の受付は参加希望者でにぎわっていた。
人混みの中、「白刃のカイル」を知る者たちが彼の姿を見て少しだけざわめく。
それらを気づいていながら無視して受付へと歩く。いちいち気にしていてはキリがない。
その名は強さと共に気性の荒さと、気まぐれで仲間にでも躊躇なく刃を向ける酷薄さが恐れを持って傭兵たちへと知られているのだ。
受付が3カ所ほどあるにも関わらず、長い列が成している。
カイルは面倒臭そうにその1つに並んだ。
何をすることなくぼんやりと自分の番を待つ。
入り口の方で、声高に会話しながら入ってくる数人の男が目に入った。
大した腕はないくせに、回りを威嚇することで自分が強いと回りに思わせられると勘違いしている下賤な輩。
カイルはそういった者たちが嫌いだった。
眉を潜めて視界から押し出そうとした時に、中に見知った顔を見つける。

あいつらは…。

見やすい位置に動こうとした時、カイルの番が回ってきた。
大会参加の意志表示をし、書類にサインをする。
受付用紙に氏名、年齢、出身地、それと大会で使用する武器と鎧の種類についての明記。
サラサラと記入を終え、剣と鎧のチェックを受ける。
カイルの武具には魔石を使用していないので検査はすぐに終わった。
その時には、男達の姿はすでになかった。


「ま、いっか…またどっかで見かけた時はその時ってことで。
 さて、と…登録は終わったし、これからどうしようか」

カイルはそのまま宿に戻ろうかと思ったが、ふと気が変わって参加する選手に用意された鍛錬所を見に行くことにした。
中庭に向かうカイルの目に、見覚えのある栗色の髪の人物が映った。

「あ〜、えっと…エリカちゃん?」

小さな声だったにも関わらず、カイルの声はちゃんとエリカの耳に届いたようだ。

「あ、カイルさん、こんにちわ」

「夕べはおかげさまで楽しかったヨ」

「いえ、私こそとっても楽しかったです。
 カイルさん、これから鍛錬なさるんですか?」

「いや…仕事ならともかく、知らない奴と手合わせするのは好きじゃないんだ。
ただ暇つぶしにどんな奴らがいるか、見に行ってみようかと思いついただけ。
エリカちゃんこそ、鍛錬所に何の用?」

「頼まれていた武具用魔石のお仕事があったんですけどね。
お渡しはしたんですけど、ちゃんとその人に合った調整になっているかは実際に戦ってるところを見 ないとわからないので、確認のために来たんです」

微笑みながら言う彼女の顔は酒場で見るよりも大人びていて、あぁ仕事にプライドを持ってる人間の顔だな、とカイルは好ましく思った。
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