戦うことを生業とした人間にとってはただの『魔石』よりも、剣や鎧に付ける『武具用魔石』の方が身近だろう。
この世界に生きる者にはすべて属性というものがある。
それは個人によって違っていて、在る者は『火』でありまた在る者は『水』であり、それぞれである。
術士はその個人の属性を知り、個人の波長と合うように調整して魔石に力を注ぐ。そうやって、1人1人に合わせて作られた魔石を剣や鎧にはめ込むことによって、剣は攻撃力を、防具は防護力を倍増する。

 ナーラはその鎖と鎧に『火』の力を込めた魔石を付けているし、ゼレントも黒い鎧の左胸の部分に『土』の魔石をはめ込んでいる。
個人使用のものなので調整に時間と手間がかかる分、それはただ力を込めた魔石よりもかなり高価な物となる。が、武具用魔石1つで生還率が格段に違うので、今ではそれを使用していない戦士の方がめずらしい。

「そ、そんなことないよ〜、二人は強いもん。私はその手助けをしただけだよ」

みんなに見つめられていたたまれなくなったのか、エリカは目の前にあったカップを勢いよく煽った。
って、ソレ、酒じゃん?

「うわっ、ちょっとエリカちゃん…それ、酒だよ、マズいよ、大丈夫?」

慌てて彼女からカップを取り上げようとすると、ナーラが笑い出した。
見ると、ゼレントも在らぬ方を見て苦笑してる。

「あの…カイルさん、何か誤解なさっているようですけど…」

エリカが上目遣いにカイルを見た。その睨むような強い瞳に見とれていると、彼女はふいに表情を崩し可笑しそうに言った。
「私、とっくに成人してますよ」

「え?えぇーーーっ?!」

だって、どう見たって15、6にしか見えないでしょ?
そりゃ、体のラインはしっかりと柔らかい曲線を描いてはいるけど、小さくて華奢でその細い肩なんてちょっと力を入れたら折れてしまいそうだし…その大きな目はあどけないし、小さな唇だって柔らかそうな頬だって…。

カイルは成人だと言うエリカを上から下へ、下から上へと視線を慌ただしく動かし、口をパクパクさせてから、隣にいるナーラに視線を移した。
ナーラはエリカの手前、大きな声で笑うのを堪えてたんだろう、手を腹に置いて顔を真っ赤にして椅子から転げ落ちる寸前だった。

「カイル…エリカは今年で22になる」

ポリポリと右耳を掻きながら、ゼレントに低い声が届いた。


「あ〜そりゃ、ごめん…悪気はなかったんだけど……」

年頃の女性を子供扱いする…それが普通、失礼に価することくらいカイルにも容易に想像がついたので素直に頭を下げる。
おそるおそる顔を上げると、頬をプクっと膨らませて怒った表情を作ってはいたものの、彼女の眼は悪戯っぽく輝いていて…視線を一瞬絡ませた後、同時に吹き出していた。

それがよかったのか、エリカの態度が親しみを感じさせるものに変わった。
その日の宴は、とても楽しいものとなった。
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