夕焼けが回りの景色を紅く染め上げる。
長く伸びた影を引き連れて、輝夜は昔何度も通った馴染みの道を辿った。
古くて小さな一軒家。
裏に回って、戸袋に隠した鍵を探す。
隠し場所は変わらない。
明るい家族が揃っていた頃から…きっとこれから先もずっと。

鍵をあけて土間で履き物を脱いで、居間へと移動する。
卓袱台を足で隅に寄せ、腕の中の華月をそぅっと床へ降ろした。
奥の部屋に進み、押入から布団を出してそこに華月を横たえる。
意識はない…汗ばんだ額、か細くも荒い呼吸が痛ましかった。

小さな桶を探して水を汲んで華月の元へと戻る。
湿らせた手ぬぐいを白い額に置けば、気持ちがよいのかひき結ばれた唇がふっと緩んだ。
薬箱から解熱剤を出し、口移しで呑ませる。
何度か手ぬぐいを変え額の汗を拭ってやるうちに、薬が効いてきたのか呼吸が穏やかになった。
床に広がる艶やかな黒髪。
それを優しい仕草で撫でながら、華月が自分の元に戻ってきてくれた幸運に感謝する。
本音を言えばかすり傷1つ負って欲しくはない。
けれど、満身創痍であっても意識を失っていても、こうして帰ってきてくれることがどれだけ難しいことなのか…鬼狩りの里の住人である輝夜は嫌という程わかっていたから…。

華月が『千里眼』で良かった、と輝夜は思う。
もし彼女が鬼や妖しと直に斬り合う『狩り人』だったなら、自分は不安に苛まれ里で大人しくなど待ってはいられないだろう。

華月は幼い頃から興味のある事にはまっすぐだった。
端から見れば無謀とも思えるような猪突猛進なところがあって、側にいた輝夜はいつもハラハラしていた。
それは今も変わらない。
華月はいつも何をするにも一生懸命で、輝夜はそんな華月を見ているのが好きなのだ。
恋心と言うには強すぎるほど華月の存在に捕らわれている自覚はあった。
が、そんなことは輝夜にはどうでもよかった。
突っ走って転ぶ華月に手を差し伸べるのは自分でなければ嫌だった。

「…まったく…俺の気も知らないで無茶ばっかして…」

輝夜の呟きが夜の闇に溶けていった。
意識が戻るまで側についていたかったが、そのままここに留まるのは気が引けた。
家族で暮らした時と変わらないこの家に輝夜は泊まったことはない。
華月の容態が安定したのを見て翌朝早く来ることにした。
静かに眠る華月の頬にそっと口付けを落として、輝夜は家を出た。
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