結界は依頼人の気配を押し隠し、鬼から守る役目を果たす。
次は「千里眼」の力を用いて、鬼の居場所を探り始めた。
翠色の瞳を閉じ、呼吸を整える。
白く華奢な手が止まることなく流れるように複雑な印を結んでゆく。

「見つけたっ!」

華月は面の下で口角をきゅっと上げて不敵な笑みを作る。
瞳を閉じたまま、頭に映る映像を心話の技で仲間へと伝える。

「城の北にある森だな」

「よし、行くぞ!」

二人の「狩り人」の気配がふっと消え、部屋には大名と華月だけが残った。

月明かりの下を駆け抜ける仲間に華月は指示を与える。
それが「千里眼」の役割。。
冷たく暗い土に埋められた屍から、じわじわと黒い闇が広がって鬼が生まれる。
怨念の生まれた場所に鬼は縛られるのだ。
恨み辛みが深いほど、深い情けに身動きもとれぬ程がんじがらめになって鬼を動かす。
生前の温かみは何も覚えてはおらず、ただただ堕とした相手の体を千々に引き裂く欲望のみ。
闇よりも暗い土の一角がぼこっと盛り上がり、中から筋張った腕が出てきた。

「雷澱、夕霧、鬼が生まれた。急げっ!」

すべてを見ているのは「千里眼」の華月だけ。
二人はまだ鬼の元には辿り着かない。
闇から生えた一本の腕がやがて二本となり、もつれた長い黒髪が表れる。
そこには角の変わりにいくつもの蝋燭。灯しているのは恨みの炎。
ずるり…と上半身を引き上げて、鬼は空を見上げてにたりと笑った。

華月の中に焦りが生じた。
生まれ出るのが予想していたよりも早い。
依頼人は結界に隠した。
鬼にその気配を悟られる心配はない。
が、対象を見つけられずに苛立った鬼がどうなるのか、考えるまでもない。
手当たり次第の惨殺。
被害は最小限に押さえねばならない。

蘇ったその場所で屠るのが一番確実な道だったが、どうやら今回は無理らしい。
どうやっても間に合わないのなら、その場に留まって迎え撃った方がいい。

「雷澱、木5本分西に。
 夕霧はそのまま。
 気配を断って、その場で待機。
 今宵の鬼は恨みが強い。油断はするな」
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