今回の仕事は、山を二つほど越えた隣国の大名の依頼だった。
「鬼狩の里」より幾分北にある領地では、未だ冬の気配が色濃く残っていた。
城に向かう道筋で、華月は春が未だ遠いことに小さな安堵と色濃い疲れを感じていた。


弄んで無情にうち捨てた女が鬼と化し、大名の命を狙っている。
夜毎訪れる悪夢で大名とその側近は鬼の存在を知り、里に救けを求めたのだ。
大名を護って鬼を屠る。それが今回の仕事だった。
人を人とも思わないその悪行の果ての結果だと、自業自得だとそう思うものの、依頼であれば仕方ない。
依頼を受けて仕事を果たし、その報酬が里を潤す。
正義の味方ではあり得ない。
絶対のものなどこの世にはないのだから。

「狩り人」は二人。
灰色の髪の偉丈夫で一回り以上年重の雷澱(らいでん)。
実戦においての基礎は彼から教わった。
今回の責任者となる。
橙色の髪で二つ年上の夕霧(ゆうぎり)。
歳が近いこともあって幼い頃は共に遊んで共に学んだ。
今までに何度も組んだことのあり、得意な得物も戦い方もわかっている、連携の取りやすい気心の知れた仲間だ。
華月の役割は、「千里眼」で鬼を監視しつつ、「護り人」の力で依頼人を護りきること。

城の奥の隠し部屋に通される。
室内に灯りはなく、小さな窓から入る月明かりが室内のものを薄暗く照らしていた。
無気味な白い面の3人に囲まれた大名は、落ち着かない様子で用意された陣の中に座っていた。時折、窓へと怯えた視線を送っては、鬼狩りの里の面々を見回しての繰り返し。

「今から結界を張りますので、決して立ち上がったり声をあげたりなさりませんよう」

面を付けているせいでくぐもった声で華月が告げた。
「狩り人」の二人が出入り口の方へ下がると同時に、懐から金の鈴を取り出した。

シャラン、シャラン…と澄んだ鈴の音があたりに響く。
華月は腕を緩やかにくねらせて鈴を鳴らしていく。
その指先から「護り人」としての力が見えない糸となり鈴の音に震えながら、大名と華月二人の回りに繭を作る。
糸は繊細な模様を描きながら完璧な球を形作っていく。
…シャンッ
ひときわ高く鈴が鳴り響き、景色が一瞬揺らいだ後に結界は完成した。

華月は大きく息を吐いて、鈴を仕舞った。
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